新たな事業領域への進出や業態の変革、業種の転換といった大胆な取り組みを後押しする「事業再構築補助金」。それを活用しようと考えている中小企業の皆さん、その補助金の採択後、その流れに続いて必要となる”実績報告”について、十分に理解していますか?
この記事では、事業再構築補助金の受け取りを確実にするために欠かせない、実績報告の手続きを解説します。補助対象となった事業が完了した後の実績報告は、補助金額の最終的な決定に直結する非常に重要なプロセスです。その方法や留意点、そして手続きの流れについて詳しくお伝えします。
なお、本記事は、事業再構築補助金の事務局が提供する「実績報告書等作成マニュアル」を元に作成しています。重ねてご確認ください。
目次
事業再構築補助金の実績報告とは?

事業再構築補助金の実績報告とは、事業の実施結果を報告しそれを証明するための資料提出手続きのことを指し、補助金入金に必須のプロセスになります。補助金採択後、全ての設備やシステムの発注、導入、支払などが完了した後に、この実績報告が必要となります。
実績報告書が提出され、対象事業の実施や支払いが確認された後に、正式な補助金額が決定されます。つまり、事業再構築補助金の実績報告は、正式な補助金額を決定し、その支給を受けるための重要な手続きと言えます。
実績報告は、その内容が厳密に適切であることが求められます。報告内容に不備がある場合や書類が不足している場合、あるいは期限内に提出されない場合には、補助金の減額や補助対象から外れる可能性があります。そのため、事業再構築補助金を利用する企業や団体は、事前に報告に必要な手続きや書類をしっかりと把握し、適切な報告を行うことが必要です。
実績報告の過程は複雑であり、特に次の二つの点で難易度が高いと感る事業者が多いです。
膨大な提出資料
補助対象の設備1つ購入につき、約15枚程度の資料が必要とされます。そのため、資料は想像以上に膨大となります。これらの資料には次のようなものが含まれます:
- 通常の取引ではあまり発行されない見積依頼書
- 社内で準備できる経理関連の書類
- 取引先に依頼して発行してもらう書類
- 事業実施中の現場の写真
報告書の提出期限は補助事業の完了日から起算して30日以内であり、期限を逸すると交付決定が取り消される可能性があります。そのため、常に期限を意識した準備が求められます。
非常に細かい提出書類のルール
資料作成には非常に細かなルールがあり、それに従わないと差し戻しを受ける可能性が高まります。このルールにはマニュアルに記載されていない注意事項もあり、その理解には時間と労力が必要となります。事務局からは複数回の差し戻しがあることを前提に立ち回ることが懸命でしょう。
実績報告には期限がありますが、初回の実績報告書の提出が期限内に収まっていれば、差し戻し対応による遅れは問題にならないようです。それでも、後の手間を省くためにも差し戻し回数は最小限におさえたいところです。不明な点がある場合は、早い段階で事務局に問い合わせることをおすすめします。
実績報告の位置付け:事業再構築補助金のタイムラインを確認
実績報告は事業再構築補助金の申請全体において、どのようなタイミングで行われるのでしょうか。事業再構築補助金のタイムラインをここで確認します。

事業再構築補助金のタイムライン
- 補助金採択の公表および通知
- 補助金申請についての解説記事はこちらをご確認ください。
- 交付申請・審査・決定
- 交付申請についての解説記事はこちらをご確認ください。
- 「交付決定通知書」の受領
- 補助事業期間の開始~終了
- 補助事業期間は申請枠により、12か月間または14か月間です。
- 「実績報告書」の作成および提出
- 提出期限は、補助事業の完了日から起算して30日を経過した日、もしくは補助事業完了期限日のいずれか早い日です。
- 提出期限内に提出されない場合は、交付決定取消となります。
- 実地検査の対応(必要な場合のみ)
- 必要に応じて、事務局の検査員が補助事業実施場所へ出向き、証拠書類、補助対象物件等を検査します。
- 「補助金確定通知書」の受領
- 実績報告書の内容及び確定検査の結果、内容に問題がなければ補助金額を確定し、事務局から「補助金確定通知書」を発出します。
- 「精算払請求書」の提出
- 補助金の受領
- 事業化状況および知的財産権取得状況の報告
- 補助事業完了日の属する年度の終了後を初回として、以降5年間(計6回)、本事業に係る事業化等の状況を事業化状況・知的財産権等報告書により、報告が必要となります。
- 取得財産の処分(必要な場合のみ)
指定の補助事業期間内に、実績報告書の提出までを終わらせる必要があります。発注や納入が遅れると、報告書の作成期間も短くなってしまうため、補助事業の運営と並行して少しずつ書類の準備を進めておくようにしましょう。
実績報告のための必要書類
実績報告において提出する必要がある書類は、「全ての補助対象経費に必要な書類」と「補助対象経費の区分ごとの必要書類」に分類されます。以下に、それぞれの詳細を列挙します。

全ての補助対象経費に必要な書類
まずは、全ての補助対象経費に関係なく必要となる書類です。これらは補助事業に要した経費の出納状況と、出金の確認をするためのものです。
- 出納帳のコピー
- 補助事業に要した経費の出納状況が記載されている部分
- 公式サイトが参考様式を用意していますので、そちらに経費の出納を記入するでも大丈夫です
- 通帳のコピー
- 補助事業に要した経費の出金が確認できる部分と、金融機関名、支店名、種別、口座番号、口座名義がわかる部分
補助対象経費の区分ごとの必要書類
次に、補助対象経費の区分ごとに必要となる書類を見ていきましょう。これらの書類は、見積もり、契約、発注、検収等の手続きを確認するためのものです。具体的な経費区分(建物費・機械装置システム構築費など)によって提出書類の詳細は変わりますが、大まかな提出書類は以下のようになります。
- 見積依頼書
- 相見積書がある場合は相見積書の見積依頼書も提出
- 見積書
- 相見積書
- 単価が50万円以上のシステムや機械などを導入するときに提出が必要です。
- 交付決定時と内容に変更がない場合、本見積書のみの提出で大丈夫です。
- 業者選定理由書
- 相見積書を提出せず、1社のみから選定した場合に必要です。
- 契約書
- 発注書または注文書と、請書または注文確認書でも代用可能です。
- 納品書または引渡書または完了報告書
- 検収書
- 納品書等のコピーに「検収」と手書きし「検収年月日」「立合者氏名」をサインし、それをコピーしたものでも代用可能です。
- 請求書
- 「振込先の口座」が明記されていない場合に事務局から指摘される可能性が高いため、あらかじめ請求書作成先にはその旨を共有しましょう。
- 事業を行っている現場や設備などの写真
以上が、実績報告のために必要な主な書類となります。書類のフォーマットを事前に取引業者に共有するなど適切に準備を行い、円滑な提出書類準備を進めていきましょう。より詳細な提出書類は、「実績報告書等作成マニュアル」の16ページ以降を参照してください。
実績報告書の作成手順
上記の必要書類がお手元にある状態で、実際に実績報告書をどのように作成していくのかを順を追って解説していきます。

1. 書類を日付順に並べる
まずは、事業を遂行する過程で発生した書類を日付順に並べましょう。この順序は下の画像の矢印の通り、見積依頼日から始まり、見積発行日、発注日、契約日、納品日(検収日)、請求日、そして最後に支払済日と進んでいきます。それぞれの日付が整合性を持つように、隣り合う書類の日付は、前の書類の日付の同日以降であることを確認してください。

2. 全ての書類の右上に番号をつける
日付順に整理した書類の右上には、経費の区別が一目で分かるように番号を記入します。たとえば、機械を4台導入した場合、「機-1」、「機-2」、「機-3」、「機-4」といった具体的な番号を各書類に記すことで、どの書類がどの機械の経費に関するものかが明確になります。

3. 書類をPDF化する
番号を記入した書類をデジタル化し、PDFファイルとしてまとめます。それぞれのPDFファイルには、「Rから始まる受付番号_書類の番号_書類の内容」というルールに基づいたファイル名をつけてください。例えば以下のような記載名が正しいです。
- R2xxxZxxxxx_機-1_発注書
- R2xxxZxxxxx_機-1_納品書
- R2xxxZxxxxx_広-2_振込金受領書
4. 提出に必要な様式を作成する
必要な書類がPDF化されたら、次に提出に必要な様式を作成します。以下がその様式の一覧になります。これらの様式は、交付決定後にダウンロード可能になります。
- 様式第6の別紙1及び別紙4
- クラウドサービス費を経費として計上しない場合は、別紙1のみの入力で大丈夫です
- 入力する主な内容は、補助事業の実績を記した簡易的なレポートです
- 様式第6の別紙2及び別紙3
- 入力する主な内容は、実際に使用した経費の詳細を記した経費明細表です
- 様式第7
- 税抜50万円以上の補助事業により取得する財産について詳細を記載します
これらの様式は、交付決定後に電子申請システムにログインをし、様式集のリンクからダウンロード可能です。
より詳細な様式の内容・記入方法は、「実績報告書等作成マニュアル」の10ページ以降を参照してください。
5. jGrantsで申請する
以上の手順で準備した書類を、デジタル庁が運営する電子申請システム「jGrants」を通じて提出します。事業再構築補助金の実績報告は郵送ではなく、オンラインで行うことが求められます。
6. 実地検査の要請があれば対応する
実地検査は、事業者の信頼性を確認し、補助金が適正に使用されているかをチェックするフェーズであり、検査の結果により補助金の支給が決定されます。実地検査を行うか否かは事務局が判断します。実地検査が行われる場合、通常は事前に事務局から連絡があります。この連絡を受けたら、必要な書類や設備の状況などを整え、検査員を受け入れる準備をしましょう。
最後に、申請内容と実地検査の結果に問題がないと判断されれば、補助金の額が確定します。そして、jGrantsシステム上で精算払い請求書を提出すれば、指定された口座に補助金が振り込まれる流れとなります。
実績報告書作成時の注意点とアドバイス
事業再構築補助金の適用には、数多くの手続きが伴います。その中でも特に重要なのが実績報告書の作成です。この章では、実績報告書の作成時の注意点と、その適切な対応について説明します。

特殊な購入状況の場合には注意
補助金を申請する際に、購入状況によっては注意が必要な点があります。
- 中古品購入の場合
- 中古品を購入する場合、製品の型式や年式などが記載され、性能が同等であることが確認できる3つ以上の見積書が必要となります。この時、通常の相見積書のケースとは異なり、業者選定理由書は不適切とされています。
- クレジットカード払いの場合
- 事業再構築補助金では通常、支払いは銀行振込で行うことが求められています。しかし、経理処理の都合上、やむなくクレジットカードで支払う場合もあることでしょう。この場合には、事前に事務局へ相談が必要です。また、以下の追加書類の提出が求められます。
- クレジットカード利用明細書(補助事業期間中に引き落としが確認できる場合)
- クレジット利用の旨を記載した領収書(領収書が無い場合は、カード利用控えでOK)
- カード利用金額の引き落としが分かるもの(通帳の該当部分のコピーなど)
- さらに、クレジットカードを利用することで得られたポイントがある場合、補助対象経費からその分を差し引く必要があります。そのため、付与されたポイントと、1ポイント当たりの還元率が分かる書類の提出も求められます。
- 事業再構築補助金では通常、支払いは銀行振込で行うことが求められています。しかし、経理処理の都合上、やむなくクレジットカードで支払う場合もあることでしょう。この場合には、事前に事務局へ相談が必要です。また、以下の追加書類の提出が求められます。
- 社内で立替払いを行った場合
- 社内の人が立替払いをした場合、補助事業実施期間内に個人に立替分の支払いを行う必要があります。この場合、以下の書類の提出が必須となります。
- 会社から個人に支払いが行われたことがわかる通帳のコピー
- 会社から個人口座に振込みを行ったことがわかる支払証明書
- 社内の人が立替払いをした場合、補助事業実施期間内に個人に立替分の支払いを行う必要があります。この場合、以下の書類の提出が必須となります。
実績報告書の作成と事業運営は同時並行で
事業再構築補助金の実績報告は、多数の書類を提出する必要があり、ルールも詳細に定められています。たとえば、機械を1台購入するだけでも、15枚程度の資料が必要になり、マニュアルの理解から申請まで1週間以上かかることもあります。ルールに従わない書類作成を行うと、差し戻し対応や補助金の減額などの好ましくない結果を招く可能性があります。
これらの手間を最小限にするためには、補助事業対象期間中に実績報告書の作成準備を進めることが大切です。具体的には、必要な書類の一部を早めに準備する、記載方法に注意が必要な書類はその旨を取引業者に予め共有するなどを行い、その後のプロセスをスムーズに進めることが推奨されます。
まとめ

本記事では、実績報告の全体像から必要書類とその作成方法などを詳細に解説を行いました。
実績報告は非常に時間と労力を要する作業です。きっと何度も事務局から差し戻しを要求されたり、必要書類の作成が上手くいかないなどあることと思われます。しかし、一つ一つの作業自体は案外単純なもので、落ち着いて処理すれば乗り越えられるはずです。その度に、本記事や事業再構築補助金の事務局が提供する「実績報告書等作成マニュアル」を参考にしてくださればと思います。
この記事が、事業再構築補助金の実績報告に悩める中小企業の皆様の一助となることを、心より願っています。