新型コロナウイルスと共存するウィズコロナ時代に向け、企業の事業再構築をサポートする「事業再構築補助金」。この補助金について何度も耳にするものの、具体的にどの企業が申請できるのか、自社が申請要件を満たしているかどうか確信が持てないという事業者様も少なくないでしょう。
この度、事業再構築補助金の第10回公募がスタートしました。そして何より重要なのは、この第10回公募から内容が大幅に変わったという事実です。新たな枠組みの設立、既存の「グリーン成長枠」の拡大といった変更点が導入されました。
そこで、本コラムでは事業再構築補助金の基本的な概要に始まり、第10回公募から生じた8つの主要な変更点を、分かりやすく詳しく解説していきます。
本コラムは、事業再構築補助金の公式サイトが公開している、事業再構築補助金 【サプライチェーン強靱化枠を除く】 公募要領 (第10回)を元に作成しています。重ねてご確認ください。
事業再構築補助金第10回公募の概要

事業再構築補助金とは?
事業再構築補助金は、新型コロナウイルスの影響により困難な経営状況にある中小企業に対して、事業再構築を支援するための補助金制度です。この補助金を活用することで、中小企業は新市場進出や業態転換、事業再編、国内回帰などの挑戦を行い、経済の構造転換を促進することができます。補助金の採択は競争の対象となりますが、採択された事業者には経費の一部が補助されます。第10回公募では、新たな支援枠や申請条件の変更が導入されています。
申請類型ごとの補助金額・補助率
対象経費
事業再構築補助金の対象となる経費は、事業拡大や成長に寄与する事業資産(有形・無形)への投資を含むものです。具体的には、補助金の趣旨に合致し、事業再構築に明確に関連づけられる経費が対象とされます。対象経費は、必要性と金額の妥当性を証拠書類によって明確に確認できる以下の区分に分類されます。
- 建物費: 建物の建設・改修に要する経費、建物の撤去に要する経費、賃貸物件等の原状回復に要する経費などが含まれます
- 機械装置・システム構築費(リース料を含む): 機械装置やシステムの導入や改修に要する経費が含まれます
- 技術導入費: 技術の導入や改善に要する経費が含まれます
- 専門家経費: 専門家の助言や支援に要する経費が含まれます
- 運搬費: 物品や資材の運搬に要する経費が含まれます
- クラウドサービス利用費: クラウドサービスの利用に要する経費が含まれます
- 外注費: 外部の業者に委託することによる経費が含まれます
- 知的財産権等関連経費: 知的財産権の取得や保護に要する経費が含まれます
- 広告宣伝・販売促進費: 広告や販売促進活動に要する経費が含まれます
- 研修費: 従業員の研修や教育に要する経費が含まれます
- 廃業費: 事業の廃業に伴う経費が含まれます
申請要件の概要
必須要件
- 経済産業省が示す「事業再構築指針」に沿った3~5年の事業計画書を作成し、認定経営革新等支援機関の確認を受けていること。補助金額が3,000万円を超える場合は、認定経営革新等支援機関に加え金融機関の確認を受けていること。
- 補助事業終了後3~5年で付加価値額を年率平均3.0%~5.0%(事業類型により異なる)以上増加させること。又は従業員一人当たり付加価値額を年率平均3.0%~5.0%(事業類型により異なる)以上増加させること。
- これらの要件に加え、各申請枠に応じた要件を満たすことが求められます。
「事業再構築指針」にて定義される「事業再構築」とは
事業再構築とは、新市場進出、事業転換、業種転換、事業再編、または国内回帰のいずれかを行う計画に基づく中小企業等の事業活動を指します。
- 新市場進出:新市場進出とは、中小企業等が主たる業種または主たる事業を変更することなく、新たな市場に進出することを指します。新たな市場とは、事業を行う中小企業等にとって、既存事業において対象となっていなかったニーズ・属性を持つ顧客層を対象とする市場を指します。
- 事業転換:事業転換とは、中小企業等が新たな製品を製造しまたは新たな商品若しくはサービスを提供することにより、主たる業種を変更することなく、主たる事業を変更することを指します。
- 業種転換:業種転換とは、中小企業等が新たな製品を製造しまたは新たな商品若しくはサービスを提供することにより、主たる業種を変更することを指します。
- 事業再編:事業再編とは、会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)等を行い、新たな事業形態のもとに、新市場進出、事業転換または業種転換のいずれかを行うことを指します。
- 国内回帰:国内回帰とは、海外で製造等する製品について、その製造方法が先進性を有する国内生産拠点を整備することを指します。
事業再構築補助金第10回公募からの変更のポイント8つ

成長枠の創設
概要
「成長枠」は、事業再構築補助金の新たな支援枠で、事業者が新たな市場や新たな事業領域に進出するための支援を目的としています。これまでの「通常枠」がなくなり、「成長枠」が設けられたことで、事業者は新たな市場や新たな事業領域への進出に向けた大胆な事業再構築に取り組むことが可能となりました。また、売上高減少要件が撤廃されたことで、事業者はより自由に、そして大胆に新たな市場や新たな事業領域への進出を計画し、それを実行するための支援を受けることができるようになりました。
成長枠の追加要件
- 補助事業終了後の3-5年間で、付加価値額の年率平均が4.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること(付加価値額要件)。
- 過去から今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属していること(市場拡大要件)。
- 事業終了後の3-5年間で、給与支給総額を年率平均2%以上増加させること(給与総額増加要件)。
グリーン成長枠の拡充
概要
事業再構築補助金第10回公募における重要な内容の一つが、”グリーン成長枠”の拡充です。これは、グリーン分野での事業再構築を通じて高い成長を目指す事業者を対象としたもので、従来の「グリーン成長枠」は「グリーン成長枠(スタンダード)」と改称され、その要件を緩和した「グリーン成長枠(エントリー)」が新設されました。
新たに設けられたエントリー枠は、より幅広い事業者が事業再構築補助金にアクセスしやすくするための措置です。特に、脱炭素に取り組む事業者にとっては申請がしやすくなっています。事業のスケールや状況に応じて、エントリー枠またはスタンダード枠を選択できる柔軟性が提供されています。
エントリー、スタンダードともに、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」に定められた14分野における取り組みが対象となっています。
エントリー枠とスタンダード枠のそれぞれの追加要件
エントリー枠とスタンダード枠では、事業者が満たすべき条件が若干異なります。
- エントリー枠
- 付加価値額の増加(年率平均):4%以上
- 研修開発・技術開発年数:1年以上
- 人材育成対象となる従業員の割合:5%以上
- スタンダード枠
- 付加価値額の増加(年率平均):5%以上
- 研修開発・技術開発年数:2年以上
- 人材育成対象となる従業員の割合:10%以上
大幅賃上げ・規模拡大へのインセンティブ
概要
事業再構築補助金第10回公募では、大幅な賃金上昇と事業規模の拡大を推進するインセンティブ制度が設けられています。具体的には、「成長枠」と「グリーン成長枠」の二つの補助枠において、上乗せ補助を提供する「大規模賃金引上促進枠」と「卒業促進枠」が新たに導入されています。
大規模賃金引上促進枠の追加要件
- 事業終了後3年から5年の間、事業場内最低賃金を年額45円以上引き上げる
- 事業終了後3年から5年の間、従業員数を年率平均1.5%以上増員させる
卒業促進枠の追加要件
- 事業終了後3年から5年間で企業規模が以下のように拡大する
- 申請時点で中小企業 → 特定事業者、中堅企業、大企業の規模
- 申請時点で特定事業者 → 中堅企業、大企業の規模
- 申請時点で中堅企業 → 大企業の規模
本枠申請における注意点
- 「大規模賃金引上促進枠」あるいは「卒業促進枠」の申請については以下の注意点があります。
- 「成長枠」または「グリーン成長枠」の申請と同時に行う必要がある
- 「成長枠」または「グリーン成長枠」の補助対象と、「大規模賃金引上促進枠」または「卒業促進枠」の補助対象は別々にする必要がある
- 「大規模賃金引上促進枠」と「卒業促進枠」を併用することはできない
産業構造転換枠の創設
概要
事業再構築補助金第10回公募では、「産業構造転換枠」が新たに設けられました。これは、過去から今後のいずれか10年間で市場規模が10%以上縮小する業種・業態から別の業種・業態へとビジネスモデルを転換する事業者を対象としたものです。
産業構造転換枠の追加要件
現在の主たる事業が過去~今後のいずれか 10 年間で、市場規模が 10%以上縮小する業種・業態に属しており、別の業種・業態への新規事業を実施すること、または地域における基幹大企業が撤退することにより、市町村内総生産の 10%以上が失われると見込まれる地域で事業を実施しており、当該基幹大企業との直接取引額が売上高の 10%以上を占めること。
サプライチェーン強靭化枠の創設
概要
サプライチェーン強靱化枠は、海外製造の部品等を国内に回帰させることで、国内サプライチェーンの強靱化と地域産業の活性化を目指す新たな制度です。この制度の導入により、先進的な製造方法を有する国内生産拠点の整備を促進することが期待されています。補助金の額は最大で5億円までとなっており、中小企業者は補助率が2分の1、中堅企業等は3分の1と定められています。なお、建物費がない場合の補助金額の上限は3億円です。
サプライチェーン強靭化枠の追加要件
- 取引先から国内での生産(増産)要請があること
- 取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属していること
- 経済産業省が公開するDX推進指標を活用し、自己診断を実施し、結果をIPAに対して提出していること
- IPAが実施する「SECURITY ACTION」の「★★ 二つ星」の宣言を行っていること
- 設備投資する事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高いこと。ただし、新規立地の場合は、当該新事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高くなる雇用計画を示すこと
- 事業終了後、事業年度から3~5 年の事業計画期間終了までの間に給与支給総額を年率2%以上増加させる取組であること
- 「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトにて、宣言を公表していること
業況が厳しい事業者への支援
概要
コロナウイルスや物価高騰などの影響により業績が厳しい事業者を対象に、新たな補助枠「物価高騰対策・回復再生応援枠」が設けられました。これは、旧「回復・再生応援枠」と旧「緊急対策枠」の統合により創設されたもので、事業者に対する支援を引き続き行います。
物価高騰対策・回復再生応援枠の追加要件
- 売上高等減少要件:2022年1月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が対2019~2021年の同3か月の合計売上高と比較して10%減少していること。
- 再生要件:中小企業活性化協議会等において再生計画を策定中の者又は再生計画を策定済かつ再生計画成立後3年以内の者。
一部申請類型における複数回採択
概要
一部の申請類型では、複数回の採択が認められています。これらの採択は、特定の要件を満たす者に限られます。これには、グリーン成長枠(エントリーおよびスタンダード)、産業構造転換枠、サプライチェーン強靱化枠が含まれます。
グリーン成長枠(エントリーおよびスタンダード)の複数回採択における要件
第1回~第9回公募で補助金交付候補者として採択された者でも、以下の2つの要件を満たす場合は、再度グリーン成長枠に申請できます。
- 既に事業再構築補助金で取り組んでいる又は取り組む予定の補助事業とは異なる事業内容であること【別事業要件】
- 既存の事業再構築を行いながら新たに取り組む事業再構築を行うだけの体制や資金力があること【能力評価要件】
ただし、すでにグリーン成長枠で採択されている事業者は再度応募することはできません。また、支援を受けることができる回数は2回が上限です。
産業構造転換枠の複数回採択における要件
この枠でも同様に、以下の2つの要件を満たす者は再度申請可能です。
- 既に事業再構築補助金で取り組んでいる又は取り組む予定の補助事業とは異なる事業内容であること【別事業要件】
- 既存の事業再構築を行いながら新たに取り組む事業再構築を行うだけの体制や資金力があること【能力評価要件】
ここでも、グリーン成長枠で補助金交付候補者として採択されている事業者は応募できません。また、支援を受けることができる回数は2回が上限となります。
サプライチェーン強靱化枠の複数回採択における要件
第1回~第9回公募で補助金交付候補者として採択された者でも、以下の2つの要件を満たす場合は、再度サプライチェーン強靱化枠に申請できます。
- 既に事業再構築補助金で取り組んでいる又は取り組む予定の補助事業とは異なる事業内容であること【別事業要件】
- 既存の事業再構築を行いながら新たに取り組む事業再構築を行うだけの体制や資金力があること【能力評価要件】
ただし、サプライチェーン強靱化枠では、1回目の採択額(交付決定を受けている場合は交付決定額または確定額)との差額分が補助上限になります。
事前着手制度の対象類型の見直し
概要
「事前着手承認制度」の一部変更がありました。このシステムは、補助金の交付決定前に事業に着手することを可能にするものです。新たな見直しにより、利用できる事業類型と対象期間が変更されました。
変更点
- 「事前着手承認制度」の対象期間が2022年12月2日以降に購入したものに変更されました。
- 利用できる事業類型は、「最低賃金枠」、「物価高騰対策・回復再生応援枠」、「サプライチェーン強靭化枠」の3つに限定されました。
まとめ

今回、私たちは事業再構築補助金の全体像と、その第10回公募で導入された新しい要素について解説しました。
この第10回公募では、「成長枠」、「産業構造転換枠」、「サプライチェーン強靭化枠」が新たに設けられ、以前のフレームワークが改訂・拡大されています。ポストコロナを加味して、売上高の減少要件が必須条件から除外されたことも、重要な更新と言えます。また、いくつかの申請枠では、二度目の申請や選考が許可されています。
これらの変更により、以前の公募で基準を満たせずに申請できなかった方や、すでに補助を受けた方でも、再度この補助金を利用する機会が生まれています。「ビジネスが苦しい」、「物価の高騰に対応したい」、「成長する分野へ事業を再編したい」、「賃金を上げるためのインセンティブが欲しい」などと思っている事業者の皆様にとって、これらの新たな補助金は大いに役立つでしょう。ご自身の事業に適した申請枠がないか、応募要項を再確認することをお勧めします。
また、具体的な申請のプロセスについては、弊社作成の以下の記事をご確認ください。